真っ黒に染まったヴァンガドーラのメンバーの前に、数人の部下を従えた女性が立っている。
「ココ、すまねぇ・・・
フリオとシモンの意識が戻らない。
その上キリアンとニキ、ドゥキオがやられた。
俺のミスだ・・・すまねぇ」
ココと呼ばれた女性の前で、土下座し謝罪するロドリゴ。

「・・・」
ミディアに黒く焦がされたメンバー達の前を、ゆっくりと歩くココ。
「ヴァンガドーラ第1部隊の特攻班が壊滅だなんて・・・信じられないわ」
ココの部下の1人が言う。
「それに何、その姿は?」
「イリス! か・壊滅じゃない、まだやれる!」
下をむいたままロドリゴが叫ぶように言った。
「半数を失ったら、壊滅っていうのよ。ロドリゴ」
イリスと呼ばれた女性がつぶやく。
「私達ヴァンガドーラにおいて、第1部隊は精鋭よ。
中でも貴方達第1班は、精鋭中の精鋭。
そのメンバーがなぜ5人も?」
さらに別の部下の1人が、ベッドで横たわるフリオを診察しながら言う。
「はっ、ソフィア様。
順を追って話すよ。
俺達がこの地に着いて間も無く、アジトとした教会が教団に包囲された。
もともと奴等の主力を撃滅するのが目的だった俺達は、そのまま戦闘に突入。
思ったとおり、敵主力がすぐに出てきた。
教団の聖騎士団と、教団と手を結ぶ連合の騎兵団だ。
フリオとキリアン、リべルトがそいつらを殲滅した。
ここまでは良かったんだが、このあとフリオが敵の感知者狩りを始めたんだ」
「感知者?」
ココが尋ねる。
「ここより東の地アキアで、連合が配下のギルドから集めたらしい」
「アキア・・・?」
ココの表情が少し険しくなる。
「アキアといえば・・・
たしかランシルバニア、があるわよね?」
ソフィアがつぶやく。
「ふんっ・・・
まさかっ!」
イリスがあきれ顔で言う。
<ランシルバニアを意識しなければいけないほど、東まで来たってことね>
ココが心の中でつぶやく。
<ここより北にはデルタ。
東には
魔女達の巣窟と言われる、ランシルバニア
その北には邪教徒のルン
南には聖教会のノープルか・・・
魔道の聖地と呼ばれる場所がひしめき合う。
魔道の者なら脚を踏み入れたくない土地>
「そ・そのアキアの感知者の護衛の中に、やばいのが混じってた。
フリオが一撃で倒され、ダイレクトリンクしていたシモンもやられた」
<いきなり5人も失うというこの事態がそれを物語っているのかも
今までのように、オーマだけを相手にしていた状況とは違ってきたってことか>
「シモンはフリオにリンクしていただけなの?」
シモンを診ながらソフィアが尋ねる。
「そうよ。フリオの視界を私達にダイレクトサイトしていたの」
ロベルタが答える。
「ソフィア、今はシモンにリンクしないほうがいいわ。ちょっと気になることがあるのよ・・・」
ロベルタが続けて言う。
シモンからぱっと手を離すソフィア。
「わかったわ」
笑顔で応えるソフィア。
「それで、フリオをやったのは?」
ココが尋ねる。
「感知者の護衛で、クレッセントという女だ」
「女?」
「あぁ、アキアの有力ギルド、デフィエルデルワーレのハンターのようだ」
ロドリゴとココの会話が続く。
「ハンター?」
「ハンターというのはこの地での職業で、賞金稼ぎみたいなものらしい。能力的にはバスターだ」
「・・・」
「金で動く、何でも屋だ」
ココもシモンのそばへ寄り診察に加わる。
「・・・シモンは、誰に?」
「シモンは俺たちと一緒にいたんだが、フリオがやられると同時に倒れて、そのままだ」
「どういうこと?」
「俺達にもよくわからない」
「これは・・・、リンククラッシャーね」
ココがソフィアの方を見ながら言う。
「おそらく・・・」
彼女もうなずきながら同調する。
「リンククラッシャー?」
ロドリゴや他メンバー達が顔を見合わせる。
「リンクしている相手に対する精神攻撃よ。
こんな強力なリンククラッシャーは初めて見るけど・・・」
イリスが説明する。
「トラップが仕掛けられている可能性もあるわ。
シモンから中継されていたダイレクトサイトを観た者は、その映像を他のメンバーには見せないように」
「あ・あぁ、ロベルタからも一応警告されているんで全員で注意している」
ロドリゴがロベルタを見ながら言う。
「ありがとう、ロベルタ。トラップの可能性に気づいていたの?」
イリスがさすがと言わんばかりに聞く。
「いえ、なんとなく・・・よ」
ロベルタがはにかみながら答える。
「予知ってわけね♪」
ココが笑顔で言う。
「そんなとこかな」
ロベルタもココに笑顔で応える。
「ソフィア、身体のみ診察して。精神の対策は後で考えましょう」
ココがソフィアに言う。
「で、シモンがやられてからは?」
「すぐさまクレッセントという女を追ったんだが、あっという間にロストした」
「ロスト? あなた達が?」
「感知者を抱えて走る奴を、ものの10秒でロストした・・・」
だんだん厳しい顔になるココ。
「その後キリアンとセラ、そしてニキがロベルタの予知をたよりにその女を追撃」
「なんですって・・・
なぜ、止めなかったの?
私達の目的は、邪悪な祭典を主催する悪鬼共の討伐。
忘れたわけではないでしょうね!」
「と、止めたさ。
止めたが、夜の間に3人で行っちまいやがった。
すぐさまアブダラとドゥキオを追わせ、セラだけ見つけて連れ帰った」
「ほ、本当よココ。 アブダラに戻るように説得されたわ、私。
ご、ごめんなさい・・・うかつだったわ」
セラがロドリゴを庇うように言う。
「目的を忘れてはだめよ、セラ」
ココが優しくセラに微笑む。
「それっきり、キリアンとニキは戻らない。
俺達の探査にもひっかからない・・・」
ロドリゴが下を向いたままで言う。
「なにがあったの、セラ」
真剣な顔で、ココがセラに尋ねる。
「はい、ココ。
ロベルタにクレッセントのいる場所を予知してもらい、その町へ行ったの。
そして彼女を見つけ、キリアンが攻撃。
身体能力と精神能力を半減させ、逃げる彼女を3人で追ったわ。
ある廃村まで来たとき、いきなり新手に襲われた。
ものすごい突きを受け、キリアンが左胸を貫かれたわ」
「なっ!?
キリアンが、剣技で遅れをとるなんて・・・」
ココが驚きながら言う。
「おそらくそいつだろう。
俺もそいつに、さっきやられたばかりだ」
リベルトがすまなそうに言う。
「リベルト、お前でもか?」
「あぁ、あの突きのパワーが並じゃない。
おまけに範囲攻撃と思われる、剣圧がすごい。
かわしていても3回ほど突きを受けると、範囲攻撃で身体が動かなくなる・・・」
「なるほど、要注意ね」
ソフィアに視線を送り、考え込むココ。
「ニキはどうしたの?」
ソフィアが聞く。
すかさずセラが答える。
「ニキの応急処置でキリアンも動けるようになり、追撃を再開したわ。
そんなとき、アブダラ達を感知。
加勢に来たと思って、私が彼らと合流したの。
キリアン、ニキとはそれきりよ」
アブダラが続けて語る。
「セラに戻るように言ったあと、
キリアン達を探したんだが2人とも感知が途絶え、
見つけられなかった。
途絶えた場所にもなぜか近寄れない。
強力なジャミングがかかっているのだろう」
「そうね、私にも感知できないわ・・・ソフィア、イリスはどう?」
ココが尋ねる。
「キリアンは、だめだわ。
首をはねられた・・・
ニキは確認できないわ」
イリスが感知しながら言う。
「はい、私も同じです・・・」
ソフィアが目をつむって静かに答える。
「そう・・・、わかったわ」
ココが静かに言う。
首をはねられた、との言葉に動揺が走るメンバー達。
沈黙が続く中、ココが切りだす。
「それで、ドゥキオは?」
「今日の戦闘で・・・。
感知者の護衛の中に、ボンバーがいた」
ロドリゴが語る。
「ボンバー!!」
ココが驚きを隠せない。
ソフィアとイリスも顔を見合わせる。
「逆バリアで包んだあと、いきなりドカンだった。
街中でも周囲に被害を出さず、最大の威力をだせる。
爆発と超高圧力で、跡形もなしだった」
「驚いたわ、私達ヴァンガドーラ以外に・・・
ボンバーが存在するなんて」
ソフィアが独り言のように言う。
「2班には伝えた?」
ココが尋ねる。
「俺がボンバーを確認して、すぐに伝えました」
アブダラが答える。
「第2班は遠距離感知と遠距離攻撃のエキスパート。
各部隊の要です。
細心の注意を払ってくださいね」
ソフィアが言う。
「もちろんだ、ソフィア様。
今回も2班は、
サンタンフェロ祭のメイン会場に視察に来てたターゲット2人を、
みごとに討ち取ってる。
その上、護衛していた聖騎士団にも大打撃を与えたからな。
俺達の誇りさ、第2班は!」
ロドリゴが自慢げに言う。
「えぇ、報告は受けているわ。
よくやったわ、ロドリゴ。
貴方達の犠牲の上になりたっている勝利だわ」
ココが惨憺たる1班に、
最大限の賛辞を与えた。
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