「お、お前は・・・」
「この教区を統べるために赴任してこられた、セイレン大審問官だ! 控えろ、娘!」
前方を遮るセイレンの部下の一人が叫ぶ。
教区を統べる?
女性の司教、なのか?
赴任後間もないのに、罪もない女性を何十人も焼いている張本人?
「ブラビトアーレ、異端審問官セイレンと言います。
貴女は魔女。一目見て分かるわ」
「ま、魔女・・・私が?」
クレッセントはいきなり魔女だと言われて動揺を隠せない。
「そう、貴女はブラビトアーレ。すなわち魔女。
今まで犯した罪を全て白状させてから、髪の毛一本残さず焼いてあげようかしら?
さぁ、いらっしゃい」
クレッセントを取り囲む5人が包囲を狭める。
「まちなさい! これはどういうこと!!」
背後から女性の声。

「サ・サーシャ!」
クレッセントの先輩だ。
「ギルドから正式に登録証と、それなりの物が行っているはず!」サーシャが続けて言う。
「登録証は確認したけど、それなりの物ってのは・・・知らないわ」
セイレンがとぼける。
「ふん、じゃぁどこでどう消えているのか内部調査したほうがいいんじゃない?
こんなところで油を売ってる暇があったらね!」
「ふふふ・・・まぁ、いいわ。挨拶がわりよ。
今回は、こんなところまで助けに来てくれた、先輩に感謝しなさい・・・ブラビトアーレ」
右手を上げ、さっと裏に返すセイレンの号令とともに、引き上げる教団員たち。
「サ・サーシャ、ありがとう」
「かまわないわ。でも、どういうこと? どうして異端審問官が貴女に?」
「わ、わからないわ。急に囲まれて、私のこと魔女だって・・・」
「魔女? 魔女とは穏やかじゃないわね」
クレッセントとサーシャは入り組んだ迷路のような町並みを抜け、大通りにさしかかった。
「奴の目的は何? 今さらギルドのメンバーを捕まえて、魔女?」
「・・・」不安げな顔でサーシャを見上げるクレッセント。
「それに、あいつら全員バスターだった。・・・本気だったってこと?」
サーシャがつぶやく。
バスターとは特定の能力を鍛え上げ、常人に比べ明らかに卓越した戦闘スキルを持ち合わせた者達をさす。
またこの時代、各地に多くのギルドが発生していた。
ギルドとは人の集まりである。
2人あつまればギルドを自称することができる。
自分たちの権益を守るため、またより大きな事業をしていくために人々が集まりギルドを称する。
職人など専門家ばかりが集まるギルドから、利益を得るためにいろんな人材が集うギルド。
情報を収集したり売り買いする人間が集まるギルドから、いろんな商品を扱う商人達が集うギルド。
依頼を受け成功報酬を得るハンター達のギルドから、警護から戦争までこなす傭兵達のギルド。
中にはどんどん大きくなり、他ギルドとの抗争のために武装するギルドもでてくる。
貴族や、商人、またギルドに雇われる武装集団、それもギルドだ。
こうして武装ギルドがどんどん発生していた。
「セイレン審問官が赴任する直前には、かのエンプル騎士団もこの地に来訪しているのよ」
周囲に目を配りながら大通りを進むサーシャ。
「エンプルって、あのユーロ最強とまで言われている騎士団?」
その後を追いかけるように追随するクレッセント。
「そう、そのエンプルよ。そいつらが街の東側、この街を牛耳るメルクメン司祭の居城付近の修道院に陣取っているわ」
「セイレン審問官の武装勢力として来たの?」
「そこまでは分からないが、この街に来た時期が同じだということ。
そしてメルクメンの悪趣味な祭りがここにきて、盛大になってきたということ。
おまけにお前が魔女だと、異端審問官から直接告発されたということ。
今分かっている事実はこれだけよ。
なんらかのつながりがあるかもしれないが、とにかく今はギルドに急ぎましょう!」
彼女たち2人が向かっているギルドも、こうした武装ギルドの1一つ。
要人警護から戦争まで扱う傭兵事業と、
迷子探しから諜報・問題解決まで請け負うハンター事業を主な柱とするギルド、
デフィエルデルワーレ。
この街で3本の指に入る巨大ギルドだ。
広場を抜け賑やかな一角にでてきた。
「お〜、帰ってきたかクレッセント」
「今度は成功したんだろうな?」
「おかえり〜、クレス」
「待ってたわよ〜、お帰り〜」
酒を酌み交わす客たちが、口々にクレッセントに話しかける。
ギルドの前にはこうした居酒屋や飲食店、売店が立ち並ぶ。
人の出入りが多いため、必要とされる物資を提供する店が集まるのだ。
ギルドが直接経営する店や、ギルドに上納金を払う契約の店がほとんどだ。
「お前がいないと、たいへんなんだよ・・・サーシャが」
「な・なに?」クレッセントに多くの声がかけられたが、その言葉にだけ反応するサーシャ。
「やれ、様子をみてこいだの、加勢を出せだの、迎えにいけだの・・・過保護もいいところだ」
「わ・た・し・が、いつそんなことを言った?」
「過保護じゃねぇって、愛しのクレスがどうしているのか気になってしょうがないんだよ。わ・か・っ・て、やれよ!」
「・・・ふ・・・」呆れ顔で両手を広げるサーシャ。
「サーシャ、ありがとん♪」サーシャにピッタリと寄り添うクレッセント。
「あ、あぁ。で、でもまじに受け取るなよ、冗談なんだから」
「おいおい、サーシャ。なに照れてんだよ?」
さらにからかうギャラリー。
「お・・・おまえたち・・・」
そんな騒ぎをよそに、ギルドの出入り口から一人の男が現れた。
「クレッセント。よく無事で帰ったな、ご苦労さん」
ギルド四天王の一人、ワーレンだ。
サーシャも含めて、デフィエルデルワーレにはバスター最高ランク、Sの称号を持つ者が4人いる。
3人いれば大手と称されるので、デフィエルデルワーレは名実ともに巨大ギルドというわけだ。
「大変だったらしいな、聞いてるぜ。その件でギルマスがお待ちかねだ。早く行って来い」
ギルマスとはギルドの長、ギルドマスターの略称だ。
挨拶もそこそこにギルド内に入っていく、サーシャとクレッセント。
「あいかわらず、華やかだなぁ」
「今年もあの二人がお目当てで、入団希望者が殺到しているらしいぜ」
「うちのギルド最近、質より量になってきてるわよね」
「めったなこと言うなよ、ハハハハハ」
「以前、うちは少数精鋭だって言ってたギルマスが、今じゃ『数は力だ!』 な〜んて開き直ってるらしいからなぁ」
「クレッセントをうちの広告塔に据えてからだよな。こんなに人が集まりだしたのは」
「クレスは目立つからねぇ・・・それに、結構女性にも人気があって彼女に憧れて入ってきてる娘、多いみたいよ。
まぁ、憧れって意味では、サーシャ目当ての娘も多いけどね」
「そうなんだよ。うちのギルド、女性多いよな」
「それが目当てで、男も増えるし。相乗効果ってことだな」
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