2012年03月26日

魔女達の刻 07

真っ暗な夜道、背後には深い闇。
その闇に溶け込む森と空。
満点の星々のもと、そびえる塔に下弦の三日月。

高い2本の塔を中心にコの字をかたどった古い修道院。
3階建ての建物でかなりの規模だ。
その中庭の端に4つの人影。
黒い服に仮面、いかにも侵入者だ。

さすがに高額なだけあって、やばいわ・・・この依頼。
結局はエンプル騎士団とぶつかるのか。
エンプルといえばユーロ最強の騎士団。
その神々しいまでの英雄伝説とは裏腹に語られる影の部分。
その影の一端と遭遇することになるのか。

暗闇の中を移動するサーシャ。
残り3人も後に続く。

依頼内容はいたってシンプルだったはず。
とある町の大商人の娘が誘拐され商権を譲るように脅迫された。
その娘を助け出して欲しいというのが今回の依頼だ。
調べていくと娘を誘拐したのは、裏ギルドの大手ヴァンファーレン。

数だけ増え続けるギルドはここにきて、ギルド連合なるものを組織した。
合法性、信頼性の向上のため厳しい審査項目を設け、
その審査基準をクリアしたギルドのみがギルド連合の正規ギルド(表ギルド)として認めれらる。
ギルド連合そのものを認めないギルドや連合に負担金を払わないギルド、
審査項目に不服なギルドやクリアできないギルドなどもあり、連合に加盟していない。
その加盟していないギルドが、連合側から裏ギルドと呼ばれる。

大きな依頼をしたいのだがギルドの数が多く、どこに依頼したらいいのか分からない。
高額の前金だけとられて、依頼がなかなか実行されない。
途中で依頼したギルドが信用できなくなったので解約したいが、解約を申し込むと逆に脅される。
こうした悩み事やトラブルを解決するために成立したのがギルド連合だ。
正規ギルドが、もし依頼者からの信頼を失えば契約は即解約。
前金の倍にあたる違約金は、即日返済が連合の定めたルールだ。
即日返済されない場合そのギルドは連合から除名、
依頼者への違約金は一旦連合より支払われる。
後日そのギルドへは連合から強制捜査が入り
違約金、そして連合への多大なる罰金が徴収される仕組みだ。
そのために連合は強大な武力を有し、相当額の負担金を各ギルドに求めることになる。

ヴァンファーレンもそうした連合に加入していない武装ギルドで
強請り、恐喝、暗殺などをなりわいとする犯罪者ギルドの大手だ。
誘拐された娘の行方を調べていくと、このヴァンファーレンからエンプル騎士団にたどりついた。
ここで一つの疑問が浮かび上がるのだ。
誘拐された娘の父親は金融商人、いわば銀行家。
狙われた商権というのも当然そのあたりだろう。
エンプル騎士団もその勇猛果敢な伝説の影であまり知られてはいないが、
騎士団の母体であるエンプル修道会はユーロでも指折りの大事業家であること。
特に銀行資本はユーロ最大だといわれている。
その大資本を背景にユーロにおける騎士団中、最大最強の武力を有してるというわけだ。
問題となる商権がエンプルの事業と関連があるだけに、すんなり納得してしまうところだが果たしてそうなのか。
ユーロ最大の銀行資本が、このあたりでは大手だが、たかだか町一つの商権を
わざわざ裏ギルドに依頼して非合法に奪おうとするだろうか。

何か別の意図があるような気がする・・・
修道院の中庭を風のごとく走るサーシャの脳裏を、いくつもの不安がよぎる。
だからこそクローディッシュたちも自分たちだけで受けず、我々と合同で受けることを提案してきたのか?

目指すは左の塔。

<!>
前方の茂みから何かが突然サーシャに襲い掛かった。
その鋭い爪より速くサーシャの右腕が斜めに走る。

パーン!

サーシャの反撃。
壁付近まで吹っ飛ぶ黒い物体。
獣だ!
黒く大きな獣!

あれだけの攻撃を受けて悲鳴一つあげない。
爪と牙だけが、わずかな月明かりを帯びて鈍く光る。

ヒュイーーーンッ!

その獣が聞いたこともない声で雄叫びをあげる。
「気をつけろ! 囲まれたぞ!!」
クローディッシュが叫ぶ。
「後ろにもいる、6匹。退路はないわ!」
クレッセントが言う。
「前4、右6、左5、後ろ6。全部で21!」
クローディッッシュの部下、アティスが叫ぶ。
<この暗闇で数を数えられるなんて、感知系か? いい選択だクローディッシュ。>
「動きが速い! それに毛深いぞ! 気をつけろ!!」
私の攻撃を受けて平気で立っていられるということは相当な防御力だ。
剛毛、剛皮ってところか。
「毛深いの、きらい!」
クレスが何か言っているがそれどころじゃない、こいつらをどう排除するか。
防御力の高さに加えこの数、ぐずぐずしていると騎士団も駆けつけるぞ。

「目を閉じろ!」
いきなり背後から見知らぬ声がかかる。

カーッ!

次の瞬間、あたり一面が閃光に覆われた。
「3で、ジャンプしろ! 1 2 3!」

ビシューーーッ!

鈍い電撃音。

キャイーン!
キャンッ!

獣たちが感電して倒れている。
地面にはまだ数箇所、細い閃光が走る。

「誰?」
クレッセントが背後から現れた二人に叫ぶ。
「お初におめにかかります。私はオクラテス、こちらはウラトンと申します。」
皮の帽子に皮コート、皮のパンツに皮ブーツ。
今流行りのファッションだ。
「ふざけた名前よね。偽名であることがバレバレだわ」
いぶかしげにサーシャが言う。
「ま、この名前のおかげで、いつも一度で私どもの名前を覚えていただける」
「ふん、偉大な先人たちの名を騙るなど、もってのほかだがな」
とクローディッシュ。
「エンプル騎士団を内偵中に、こんなゴタゴタにまきこまれてしまい、とても迷惑しているのだが・・・
 見るところ、我々の敵でもなさそうなので加勢いたしました」
名前への不満は無視して、オクラテスが続ける。
「その服装を見ればだいたいどこの者かは察しがつくが、お前たちはいったい?」
「それは秘密です・・・が」
と、サーシャの質問にオクラテスがとぼけた顔でかわすが、
すぐさま、騒がしくなってきた修道院の気配を察し左の塔を指差し叫ぶ。
「早く行かないと、この騒ぎでエンプル騎士団がすぐに駆けつけますよ。
 ここは我々が敵の注意を引き付けます。貴女たちは早く塔へ!」
「ちっ! 詮索は後だな、クレスはついて来い! 塔へ上る。
 クローディッシュは相棒と、塔の入り口を警戒してくれ!」
サーシャが残り3人に指示する。

塔に登るにはこの中央の聖堂を通るしかない。
聖堂の中には5,6人の騎士団が待ち構えていた。
すかさず、サーシャの右腕が円を描く。
パーン!
大きな衝撃音とともに団員が3人ほど吹っ飛ぶ。
何が起きたのか分からず残りの団員がひるむ。
そこへサーシャの2撃目。
ビューーーッ、パーン!
腕は上下に動いた。
真っ赤な鮮血をふりまき団員の一人がその場に倒れる。
それを見た団員がビビりながら叫ぶ。
「き、きさまら。なんの目的があって神の住まうこの地に足を踏み入れる!」

<後ろ!>
振り向きざまに、クレスが背後に跳ぶ。

「気安く神の名を騙るな!」
サーシャの攻撃が残る2人を襲う。
ビューッ、パパーン!

背後では新手2人をクレスが殴り倒したところだ。

「塔の最上階へ!」
サーシャとクレスが塔の螺旋階段を登る。
塔の中段から護衛兵が続々と現れ矢を構える。
この狭い塔の中で矢を射掛けられると少々やっかいだな。
「クレス、弓兵を!」
<跳ねろ!>
クレスが一気にサーシャを飛び越え前方の弓兵の頭上に襲い掛かる。
<どいて!>
空中でクレスの左回し蹴りが炸裂。
悲鳴とともに階段から落ちていく弓兵たち。
<じゃまよっ!>
着地と同時に、その回転のまま右後ろ回し蹴り。
多数の絶叫と、床に叩きつけられる断末魔の声。

一気に塔を駆け上がる2人。

<!>
いきなりダガーがサーシャの頬をかすめた。
前方に敵の集団。

<バスター!>

直感した。
こいつはバスターだ!


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