サーシャがつぶやく。
「それにオクラテスも、騎士団も、彼女を検体と呼んでいた・・・」
「検体?」
いぶかしそうにクローディッシュが尋ねる。
「そう、少女のことを騎士団も聖教会も検体と呼んだんだ」
サーシャが続ける。
「さらわれたのは、とある町の有力商人の娘だったはず。なのにたどりついてみればエンプル騎士団に聖教会。そして娘は検体とよばれていた」
「ふむ、やはりうさんくさい依頼だったんだ。サーシャ、貴女と組んでいて良かったわ・・・いろいろと」
「えぇ、単体ギルドだとつぶされかねないスケールになってきているかもね」
「それにしても、依頼主にはなんて説明しよう。少女は奪われるし、おまけにエンプルと一戦交えてる」
「説明の必要はないかも・・・依頼者は聖教会の可能性もでてきたわ」
「なるほど、我々をおとりにするために依頼しておいて、依頼主はもうすでに消息不明ってわけか」
「クローディッシュ、一つだけお互い確認しておきましょう。オクラテスたちは聖教会戦闘員の服装はしていたが、聖教会と確定したわけではない。
あの服は最近大流行しているから、似た服などどこにでも売っている。聖教会戦闘員の格好をした2人組みに少女を奪われた、というのが事実だ」
「そうだな。聖教会の戦闘員や、突撃隊員のファッションは今大ブレークしているからな」
アティスも頷きながら言う。
「かっこいいんだよねぇ、聖教会の戦士の服装って・・・実は私も女性コマンド、持ってるのよね」
「あれっ、めっちゃカックイイ!」とクローディッシュ。
「そうね、センスは抜群よね」とサーシャ。
「・・・サーシャ、大丈夫か? 彼女、ずいぶん落ち込んでるみたいだけど」
クローディッシュが会話に加わってこないクレッセントを心配して言う。
「うん、大丈夫よ」
軽くサーシャが答える。
「駆けつけたとき気絶してたみたいだけど、身体のほうは?」
「えぇ、彼女なりに見逃す理由があったんでしょう? でなければ、少女をさらう輩を彼女が見過ごすはずないわ」
「でも、あの高さから落ちたんだぞ」
「クレスが気絶したとこなんか、見たこと無いわ」
「見逃すって? それじゃぁ、依頼は?」
「そぉ、そ・れ・なのよ。 ミッションであっても相手が女性となると、平気で見逃したりするの・・・彼女」
「えーっ」と驚き顔のクローディッシュ。
「だから、ミッションの失敗率が高くてランクBのままなのよ・・・ま、それ以外にも理由はあるんだけどね」
「し、しかし・・・それじゃぁ、ハンターとしての資質が問われないか?」
「うちのギルドで、あの娘に文句いう人間は誰もいないわ」
「そうか、そうだよな。 おたくの看板娘だもんな」
「ん〜」サーシャが頷く。
「ましてや、あんなに落ち込んでるように見えたら、なおさらか」
「ま、結構本気で落ち込んでるみたいだけどね・・・フフフ」
聖教会とは、教団と発祥を同じくしてはいるが途中でその教義の違いから分かれた別組織である。
いわばお互いが異端同士というわけだ。
世界帝国だったオマニア帝国にて発祥した宗教だが、その後帝国が西と東に分裂。
西オマニア、東オマニアとなったわけだが西はすぐ滅亡し新オマニア帝国が成立。
それを機に東オマニアはウリース帝国と呼ばれるようになった。
ウリースは世界帝国オマニアよりももっと古い時代この地方を統べた、一大国家だ。
帝国の分裂以前に派閥争いが起きていた教団ではついに異端狩りの名のもとに派閥争いが激化。
その結果、西オマニアには教団の聖地が、東オマニアには聖教会の聖地が成立することになった。
幾世紀過ぎ去った今でもユーロの西では教団が、東では聖教会の勢力が強い。
オマニア帝国もウリース帝国すでに滅び去った現在においても、その聖地の場所は変わらず教団はオーマ、聖教会はノープルとなっている。
驚くべきことにノープルは現在、別の宗教であるスラム教のシュマン帝国の領内に存在している。
異教徒の国の伝統ある街が、今も聖教会の聖地なのだ。
「体の各所にはリミッターといわれる限界維持機能がついている。
お前も聞いたことがあるだろうが、この機能のおかげで我々は本来持っている能力のほんの一部しか使っていないんだ。
通常の生活を送るにはこれだけで十分だというわけさ。
神様などあまり信じないが、昔の神様が我々が平和に仲良く暮らすようにとつけてくれた機能なんだろうな」
「そ、そう言われると、質問しにくくなってしまう・・・」
「ははは。独り言だ、そう気にするな」
サーシャやクレッセントと分かれてから、ギルドへの帰り道。
アティスがリミッターブレイクに関して興味をもったのか、クローディッシュにいろいろ尋ねている。
「その機能を自由に外すことができる者のことをリミッターブレイカーというんだ。
リミッターブレイクという技は一時期ものすごく流行ったようだが、危険な技のため今はほとんど目指す者も推奨する者もいなくなった」
「どうして危険なの?」
アティスが聞く。
「リミッターを外せる部分ってのは、やはり数に限界があるんだ。
例えば、今日クレッセントが修道院の屋根までジャンプしただろ、
修道院ってのはただでさえ天井が高い上に、屋根裏には大きな部屋がある。
3階建ての修道院とは言っても、実質5階建ての建物より高い場合がある。
そこまでジャンプするということは、ジャンプする瞬間には逆に5階建ての屋根から落ちて、地面に叩きつけられるのと同じ衝撃が体にかかってくる。
つまり、足だけのリミッターの開放だけでなく、腰・背・首・頭の骨と内臓を支える全ての筋力のリミッターを開放しなければならない。
細かいことを言えば、目玉が飛び出すのをどうやって押さえ込むのだ?
全内臓が一気に下へ落ちるのをどうやって支えるのだ?
骨は? 関節は? どう強化するのだ?
そのノウハウと、同時にいくつものリミッターを開放してやるだけの能力が必要だ。
一つでも欠けると、内臓破裂など致命傷になることが多い。
過去多くのチャレンジャーたちが体を壊したり、命を落としていった。
遊び程度ならまだしも、戦闘に使用するとなると、それほどまでに危険な技なのだ。」
「なるほど、5階屋上から飛び降りて足は支えきったとしても、背骨が折れて上半身が地面に叩きつけられる。背骨は支えても、内臓が下へ引きちぎられる。
それらをいかにして支えきったとしても、飛び出す目玉はどうやって支えるの? ってことですね」
「そう、それほどまでに難しい技なのに、彼女はいとも簡単にあのジャンプとあの高速移動をやってのけた」
「クレッセントがハンターランクBって・・・本当なんですか?」
「あぁ、ミッションの成功率が基準に達していないそうだ」
<それ以外にも気になることがる・・・>
「そうなんだ。すごい能力があってもハンターたるもの、ミッションの成功を第一優先しなければだめですよね」
「そのとおりだ、アティス!
ハンターたるものミッションの成功が第一優先だ!!」
<修道院の屋根にジャンプしたときは、神速とはいえその軌道がはっきり見えた。しかし屋根からオクラテスまで飛んだときは・・・>
「私もリミッターブレイク、少しは勉強してみよっかなぁ」
「なんにでも興味を持つことはいいことだ。体を壊さないように気をつけるんだぞ。
あれは、特化した能力あっての技だ。特化能力無くしてまねをして、命とりにならないようにな」
「は〜い・・・」
<その軌道がまったく見えなかった。>
「クレッセントに教えてもらおうかな?」
「いいんじゃない。今日、お友達になったんでしょう」
「ん〜、でもなんかクレッセントと2人だけになると・・・いけないムードになりそうで」
「なに言ってるのよ、へんな娘ね♪
超美人でお色気ムンムンだけど、あまり気にしなくても大丈夫よ」
<屋根から彼女が消えたと同時に、オクラテスの足にしがみついていたように見えた・・・ま・さ・か・な・・・>
「そ、そうですよね」
「貴女も十分すぎるくらい可愛いわよ♪」
「・・・」うれしそうに顔を赤らめるアティス。
<リミッターブレイクだけでも技のランクはS級・・・>
「アティス、貴女クレッセントが修道院の屋根から飛んでオクラテスにつかまるところ見ていた?」
「はい、見ていました」
「なにか、かわったところとかなかった?」
「べつに? 屋根から消えたと思ったら、オクラテスの足にしがみついていましたよ」
<!>
「クレッセントが、空を飛んでいるところは見えなかった?」
「えぇ、速すぎて見えなかった」
<感知系の彼女にも見えなかったってことは、やはり・・・>
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