そよ風を受けて、一面の花畑がゆらめき、そしてきらきらと光輝く。
荘厳な教会が小さくたたずみ、遠くには真っ白な山脈がそびえる。
目の前をいくつもの蝶が飛び交い、なんてのどかな光景だろう。
この地で過去にもそして今も凄惨な事件が起こっているなんて、とても信じられない。
敵が炎を操る可能性があることから、狭い洞窟であるカタコンベの捜索は中止となった。
そんなところで強力な炎を放出されたら、全滅もありうるということだ。
修道院から見る景色は、まるで美しい絵画そのものである。
その絵画の中に引き寄せられるように、クレッセントが花畑をゆっくりと歩く。
色とりどりの花畑の、正面には白い山々、右手には教会。
<何かを感じる・・・何か、違和感を
それも急に感じ出した
正面? それとも、教会?
どんどん強くなる・・・こ、これは危険信号
得体の知れぬものが襲い掛かってくる兆し>
パーッっとその感覚が、消えた。
<なに? なんだったの、今のは?>
もう、何も感じない・・・
不思議に思いながらも、その方角に進んでいく。
花畑が一旦あぜ道で途切れた。
少女がいる。
あぜ道に設置してあるベンチにちょこんと座っている。
「おっ、可愛い子だねぇ」
リコが思わず駆け寄る。
<リコ、いたの?>
「か〜わいい!」
アンリも少女のほうに走り出す。
<アンリも?
リコもアンリも付いてきてたんだ・・・気づかなかった>
感知が、妨害されている?
周辺探知が、できない?
「お譲ちゃん、こんなところで何してるの?」
リコが、猫なで声でしゃべりかけた。
長い睫にサファイヤブルーの瞳、筋の通った鼻に、小さな唇。
なんとも可愛い顔に、縦ロール10本の豪華な髪型。
そして洗練された優美な装い、まるで高級人形のような少女だ。
少女はクレッセントを見つめている。
「近所の子かい?」
リコの問いかけには一切答えず、ベンチから降りクレッセントのほうに歩み寄ってくる。
「あら、怖がらせてはだめよ。リコ」
アンリがちゃちゃを入れる。
「えっ、無視かよ。ちょっとショック・・・」
しゃがみこんで、ベンチに片手を当ててショックのポーズをとるリコ。
「ねぇ、おねぇちゃん・・・」
少女がクレッセントに話しかける。
「なぁに?」
笑顔で答えるクレッセント。
「おねぇちゃんには、強いお友達がいるのね・・・」
「えぇ、いるわよ」
リコやアンリを見ながらクレッセントが答える。
「お願いがあるの・・・」
「なんでも言って」
「私の大切なお友達が・・・」
悲しげに下を向く少女。
「大切なお友達が悪い奴に捕まってしまって、帰って来ないの・・・だから、助けて欲しいの」
思わぬ展開に、目を見合わせる3人。
「貴女のお友達が捕まっている所はどこなの? 知ってる?」
少女が、ゆっくりと指差す。
「悪い奴って、どこにいるの?」
再び少女が、同じところを指差す。
指差す先には、教会があった。
教会の入り口。
大きな扉、押しても開かない。
鍵がかかっているようだ。
リコがすかさず、持っていた針金を鍵穴にをつっこんだ。
そして、いとも簡単に扉を開けた。
「あら、すごいのねリコ」
「ちったぁ見直したか、クレス?」
「頼りになるわぁ」
「惚れちまうだろ?」
「クレスが好きなのは、ゴツゴツした毛むくじゃらじゃないのよ。
柔らかくって、スベスベのツルツルな子が好みなの」
アンリが割って入る。
「え〜っ!そうなのぉ?」
クレッセントの腕に、自分の腕を絡めるアンリ。
「そうよ。ゴツゴツした子は好みじゃないわ!」
「お前が答えるなよ、アンリ」
「ねぇ、クレッセント♪」
両腕で絡みつき、クレッセントにスリスリするアンリ。
「俺のクレスに、何いちゃついてんだよ!」
「あっ、俺のクレスって言った。リ〜ングホルンに言〜いつけてやろっと」
「え〜っ!彼は冗談通じないっつうか、通じすぎっつうか、そんなこと言ったらまじやべ〜」
「ふふふ・・・」クレッセントが笑う。
「熱いからね、彼♪」とアンリ。
「特Aはみ〜んな、熱っついんだよ!」
からかい顔でリコが言う。
「そういえば、そうね・・・ベジも熱っついわぁ♪」
手のひらを適当に開いて、面倒くさそうに顔に風を送るそぶりをするアンリ。
その顔がおっかしい。
「ふふふふふ」
「ランクBの時は楽しかったなぁ。
いっつも笑ってたし・・・
私も、ランクBに戻ろうかしら」
ますますクレッセントに引っ付くアンリ。
「いっつも笑ってないって、ふふふ・・・」
「そうすれば、クレスと一緒にミッション組めるかもしれないしぃ」
「あっ、それいいねぇ! 俺もランクBに戻ろっかな?」
「クレスは女の子としか組まないんだから。リコはリングホルンと組んでなさい♪」
「えぇっ・・・俺もスベスベのツルツルがいいなぁ」
「リコ、なんかいやらしいわ♪」
「ふふふふふ・・・」
「これはみなさん、どうされましたか?」
祭壇の近くまで来たとき、突然オーランド神父が声をかけてきた。
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「イジルと村に行ってきたが、特に変わった様子はなかった。
ただ、失踪事件の話になると、なぜだか全員知らぬ存ぜぬを通す。
辺境の村特有の集団意識かもしれないが」
「イジルです。報告します。
リングホルンと、村の様子を見てきました。
村人たちの第一印象ですが、生気がない。
営みや、装いが古い。
そして信仰厚く、神にとても感謝している・・・そんなイメージでした」
「次、ベジネイト」
カタコンベの探索を断念し、3組に分かれて周辺の情報収集をしてきた。
その報告会である。
「はい、ベジネイト。報告します。
ニーナと共に修道院周辺と南側の林と農地、そして街道筋を探索してきました。
特に報告すべき点はなく、静かなものでした。
数人行き交う人がいたので尋ねてみましたが、同じく事件のことは知らないとのことでした」
「うん、ご苦労だった。リコ、そちらはどうだった?」
「はい、リコ。報告します。
修道院の北側の森と農地の探索でしたが、朝一番に農地にて少女と出会いました。
少女から、捕らわれた友人を助け出して欲しいと依頼を受けました。
捕らわれている場所を尋ねると、教会を指差しました」
「教会を?」
いぶかしげにベジネイトが言う。
「はい、少女は捕らえた犯人の居場所を尋ねたときも、教会を指差しました。
それで、アンリ、クレスと共に教会を調べにいきましたが、オーランド神父に出会い退散いたしました」
「あぁ、聞いている、神父より。
改装中により、許可なく入らないで欲しいそうだ。
施錠してあった鍵を開けて侵入したそうだな? リコ」
「は、はい。ピッキングにて入りました」
「神父は特に何もおっしゃってはおられなかったが、かなりご立腹のご様子だったぞ」
「申し訳ありません。 しかし、教会には私も何か違和感を感じました。
それで、周辺で教会の中の様子をうかがっていました」
「ずっと? 夕方まで?」
「はい、ベジネイト。夕方まで見張っていましたが・・・残念ながら、成果は何もありませんでした」
「北の森は、どうなったの?」
「すいません・・・北の森へは行けませんでした」
「なんてこと! 今日の貴方の任務は3人で北の森と農地の探索だったはず。
それをどこの誰ともわからない少女の言葉に、一日中教会周辺で過ごしていたですって!」
ベジネイトが手のひらで机を叩く。
「北の森へは、明日必ず行きます」
「リコ、明日は教会周辺と北の森とどちらに行きたい?」
厳しい顔でちょっと考えた後、リングホルンが切り出した。
「・・・それは」
「私にも関係のあることだから、追加報告させてください」
「よし、アンリ報告を聞こう」
「はい、アンリ追加報告ということで、特に気づいた点ばかりに絞り報告いたします。
1つ。少女と出会ったとき、リコや私のほうが近かったはずなのに、少女はわざわざクレッセントのそばまで行き依頼してます。
そして、別れ際にクレッセントの手を握ったんです。その瞬間クレッセントは凍りついたように動かなくなりました。
少女には、接触系精神感応者の可能性があります。
2つ。クレッセントは、少女に出会う前から教会に違和感を感じています。
教会に引き寄せられていく途中で少女に出会い、出会ってからその違和感が大きくなったようで、それで3人で教会に侵入しました。
3つ。教会の中でクレッセントは祭壇にある、異物に気づいたそうです。
そして、いきなり現れたオーランド神父に退散させられました。
その後、3人で教会を監視しておりましたが、動きは全くありませんでした。以上です」
「異物とは?」
ベジネイトが尋ねる。
「教会に、在らざるものだそうです」
「う〜ん・・・リコ、明日も引き続き教会とその周辺の情報収集を行え」
「はっ!」
「リングホルン!」
ベジネイトが不満そうに言う。
「いかにも怪しいじゃないか、教会とその周辺。リコもアンリも感知系だ。
我々がカタコンベ調査を断念したため、向こうから動いてきたのかもしれない。
そうは思わんか、ベジネイト?」
「・・・」
ベジネイトは無言だ。
「明日、北の森へは・・・」
リングホルンが、ベジネイトの顔色をうかがいながら言う。
「俺とイジルが行く。ベジネイトとニナは修道院と教会周辺を徹底的に調べてくれ」
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